日本の着物は、結ぶという行為が何度も繰り返されます。
それは、着物に限らず、持ち物や履き物や髪結いにいたるまで、その結び目を数えたら、大変な数になると思います。
現代の私たちの生活から考えたら、すごく不合理で面倒なものという風に映ることでしょう。今では、蝶蝶結びひとつちゃんと結ぶことができない子供たちもいるぐらいですから。

では、どうして昔の日本人は、この結ぶということを合理化しようとしなかったのでしょうか?なぜ、ボタンのようなものを作ろうとしなかったのでしょうか?

それは、たぶん結ぶという行為自体に意味を持ち、大切なものとして考えられていたからではないでしょうか?
結び方や、結ぶ位置などいろいろな意味を持っていたようです。

結びの意味

*魔除けとしての結び。
結界を結ぶためにしっかりと結んで、お守りとしての結びをした。安全祈願である。
女性の場合は、赤色など色自体にも魔除けの意味があります。
若い舞妓さんが、赤い鼻緒を使うのもそういう意味があるようです。

戦国の鎧などは、自分一人では着ることができません。
そうした場合、人に結んでもらう多くの結びは、安全祈願であると同時に
一人の命ではないという責任感みたいなものをその結びの中に感じとっていたようです。
人に着せてもらうという着付けの行為は、こうした意味あいからも婚礼などでは、もちろん
縁起のよい行為であったのではないでしょうか?
武士が、登城のおりに妻に袴の前を結んでもらえば、そこはちょうど丹田の位置でもあり
意識として気持ちが引き締まることは、容易に想像がつきますね。

*良縁を結ぶ
文字通り、結びには、人と人の関係や仕事など、良縁を結ぶ意味があります。
神社で売られている、お守りは叶結びといわれる結びがしてあるようです。
身体中に結びを使い、どこからでも良縁が入ってくるように、願っていたようです。
旅に出るような場合など、さらに結び目が増えていきます、旅先での人との交流や
こころの交流を楽しみにしていたのかもしれませんね。
また、その結び目は、ツボのような所を刺激して疲労を和らげる
役目もあったのかもしれません。

*何かを生み出す結び
むすび(産霊)の神とは、天地、万物を生み出す神霊のことです。
字は違いますけど、同音ですから、当然結びのなかにもそういった意味合いを
込めていたと思われます。つまり、結びとはなにかを生み出す力をもっているわけです。
毎日の結びの中に、生まれ変わり新鮮な気持ちになって一日を迎える意味を込めて
ひとつひとつ、丁寧に着物を着ていく。着物を着ることで、御祓のいみをも含め
素晴らしい一日が始められることを願ったいたのではないでしょうか?

こうした意味を考えれば、これらの結びのひとつひとつは省略することのできない、
大切な行為であり、儀式であったのかもしれません。
着物は、まだまだ、色々なことを僕たちに伝えようとしているのだと思います。

着物からだより